第3節 本調査研究のプロセス

 「必要生計費」を兵庫県内のすべての労働者世帯ごとに算出することは不可能であるが、①地域、②家族構成(世帯人員)、③年齢、④費目といった4つの側面で必要生計費を検討していくことで、より多くの労働者の生活実態に近い必要生計費の算出が可能となると考える。これは、人事院「標準生計費」において、世帯人員、費目、地域の側面で算出がなされていることや、生活保護費支給のための「最低生活費」では、地域、費目、年齢、世帯人員ごとの区分を設けていることからも、上記4つの側面を考慮して算定していくことの妥当性はあると考える。
 そして、本調査研究の目的に到達するためのプロセスとして、①4つの側面(地域、家族構成、年齢、費目)ごとに労働者の生活の現状と問題を把握したうえで、②兵庫県内のできうる限りの幅広い労働者が算出結果を活用できるような汎用性ある標準的なモデル世帯を設定し、③現時点で労働者にとって「心の豊かさやゆとり・安心」して暮らせるための「必要生計費」を算出していくといった手順を踏んでいる。
 なお、本調査研究の成果を妥当性の高いものとするために、上記プロセスごとに必要な情報を収集していかなければならない。そのため、先行する研究や調査、各種統計資料を収集する以外に、必要生計費算出にあたっての独自の基礎調査をプロセス①と③において実施することとした。

 プロセス①「現状と問題把握」のために、兵庫県内の労働者を対象とした「勤労者ライフスタイル調査」(以下「ライフスタイル調査」という)を実施し、4つの側面(地域、家族構成、年齢、費目)を切り口とした労働者の現実の年収や支出、生活に対する満足感や、耐久消費財等の保有状況などの実態を明らかにする。
 プロセス③「必要生計費算出」では「店頭小売価格調査」を実施し、「マーケット・バスケット方式」による生計費算出のために必要な、生活品目ごとの実勢価格を把握する。

 なお、上記「マーケット・バスケット方式」採用について説明をしておく。生計費の捉え方には主に「理論生計費」と「実態生計費」をベースとする考え方がある。「理論生計費」とは、実際の生活で支出された生計費でなく、理論的に構成した生活上に必要な財貨・サービスに実勢価格を乗じて得る生計費であり、その算出手法として「マーケット・バスケット方式」がある。さらに、全費目をマーケット・バスケット方式で行う「全物量方式」(ローントリー方式)、人事院「標準生計費」のように、食料品のみマーケット・バスケット方式を採用し、それ以外の費目は費目別支出割合などで推定する「半物量方式」(エンゲル方式)がある。
 また、「実態生計費」とは、各世帯における現実の生活に必要とした生計費を調査した平均値で、「家計調査」や「全国消費実態調査」などがある。(以降、本調査研究では原則、2010年次の「家計調査」、2009年度の「全国消費実態調査」の結果をもとに分析を進めることとする。)
 このような方式の中で、マーケット・バスケット方式を採用するのは、まず、「実態生計費」では世帯の生活実態を捉えることはできても、汎用性を持たせるためには多くのサンプル数を得なければならず、時間的・予算的な制約が課されてしまうことや、費目によっては個人の嗜好性が高くなる場合もあり(食事、娯楽費など)、やはり必要生計費の汎用性においての基準にぶれが生じる可能性がある。また、「理論生計費」でも、半物量方式は食費については実勢価格を反映しているが、それ以外の費目は食費に理論値を乗じて換算するため、生活者の実態が浮き彫りになりにくい面もある。それらに比べて、マーケット・バスケット方式(全物量方式)では、生活者の実態に近い生計費の算出が可能となるが、これも、バスケットに入れる品目については恣意的なものになる可能性がある。そのため、本調査研究では、適切な品目を設定するために、あらかじめライフスタイル調査で標準的な生活者が消費・保有する品目についての考察を行ったうえで、マーケット・バスケット方式を採用し、必要生計費算出を行っていくこととした。