3.必要生計費に関する今後の課題

 「必要生計費」の算出は、社会全体にとっての重要な指標であり、個々人の生活満足感を得ていくためにも重要な指標である。これからの産業・労働政策上においても欠かせない指標となると考えるが、反面、その生計費算出のプロセスの煩雑性と算出手法の不統一性によって、その継続的な取り組みを困難なものとしている。また、「必要」という考え方は個々人の価値基準によって水準に大きな幅がどうしても存在し、妥当性や信頼性の観点から汎用的なものになりにくい指標である。今後は、必要生計費の重要性を認識したうえで、その算出手法の統一化や簡素化といった取り組みが必要と考える。 また、「必要生計費」算出後の汎用性の点では、地域や年齢、家族構成といった多様な状態をどのようにモデル化していくか、もしくは可変性を高めることができるかが重要でもある。
 このような「必要生計費」の算出手法による課題は残されてはいるが、今回の調査研究で算出された結果をどのように企業の賃金政策に活かしていくことができるであろうか。
 「賃金」は生計費のみの考え方で形成されるのではなく、それ以外に生産性、労働力需給関係、労使関係がその決定要因となってくる。よって、「必要生計費」は賃金の下限を決定する要因になり得るものであり、また、企業活動によって得られる生産性は、その賃金の上限を決定する要因となる。そのため、必要生計費をベースとして、生産性から導き出された利潤をどのように分配するかが労使間での調整事項となると考えるが、そもそもの算出された必要生計費の水準に対して労使間のコンセンサスを十分に図る必要がある。ここでのコンセンサスが得られない限り、賃金決定に大きな齟齬が生まれてしまう結果となる。本調査研究では標準的なモデル世帯と地域をもとに算出を進めてきたが、企業の賃金政策に反映させるためには、企業ごとの実情(年齢構成、家族構成、地域性)に応じて、今回算出された標準的な「必要生計費」をカスタマイズしていく必要があり、調整や一部の変更をしていく方法論の確立が必要となってくる。企業の賃金政策を労使間でまとめていく重要な指標となるように、その方法論を今後検討すべき課題として提起しておく。
 
 以上、必要生計費の算出について社会的有用性や現時点での生活満足感に与える影響、そして今後の課題として、算出にあたっての方法論確立や企業の賃金政策への導入課題といったことを考察した。今後、必要生計費算出にあたってのこれらの課題をどのように取り組んでいくか等、長期的な視点で労使と行政が一体となって取り組んでいくことが必要である。